動物病院は病院と並んで、動物の命を守る無くてはならない場所です。そのような動物病院の開業は、顧客の笑顔とペットの健康を取り戻す使命から始まる、やりがいのある道のりでしょう。
ただし、自院の開業にあたって、資金計画、行政手続き、人材採用、そして集患戦略など、多方面での計画と努力が求められます。また、競争が激しい市場であるため、差別化するための戦略も必要となります。本記事では、動物病院をこれから開業しようという人のために開業時にやるべき必須項目を紹介していきます。
動物病院の需要
農林水産省が公開している「飼育動物診療施設の開設届出状況」によると、2012年(平成24年)には1万4703カ所だった国内の飼育動物診療施設数は、2022年(令和4年)に1万6701カ所まで上昇しました。飼育動物診療施設と動物病院は同義語を指します。
加えて、一般社団法人 ペットフード協会の「2021年(令和3年)全国犬猫飼育実態調査 結果」における「1年以内新規飼育者の飼育頭数」は、2019年から2021年にかけて犬・猫共に13%以上増加しました。
この新たなトレンドに目を向け、動物病院の開業を検討する人も多いと考えられます。開業を考える際には、この多様化するニーズをしっかりと把握し、柔軟に対応できる院経営が求められます。
開業するために必要な経営ポイント
動物病院に関する資格取得
動物病院は、獣医師免許を持つものが診療施設開設届を出すことで開業が可能です。獣医師免許は、獣医学部や獣医学科がある6年制大学の卒業者が、獣医師国家試験に合格することで取得できます。
開業許可は、各都道府県知事からの許可が必要で、所定の書類や設備、施設の標準を満たしている必要があります。
運営方針の決定
スムーズな開業準備に向け、他医院との差別化に向けた独自コンセプト、ターゲット層の設定や自由診療のサービス構成などを決定します。医療ミスや事故の予防、感染症の管理など、事前にさまざまなリスク面を考慮し、対策を練ることも重要です。
資金計画
開業に必要な資金
動物病院の開業資金は、3,000万~4,500万円前後と推定されます。この額は、物件のレンタル費用、設備投資費やスタッフ採用のための求人広告の数などにより変動します。
加えて、ランニングコストとして医療機器のメンテナンス、施設維持費、水道代や電気代など多額の費用も必要になります。開業計画を進める際には、これらの複合的な要素を慎重に検討し、ある程度正確な資金計画を立てることが不可欠です。
資金の調達方法
開業資金の調達方法は、自己負担や融資に加えて、クラウドファンディングやベンチャーキャピタリストからの出資などがあります。他の業種に比べて動物病院の開業には多くの資金が必要なため、様々な候補を検討することが重要です。
そのうえで資金提供者との間で、返済期間や利息率、返済方法の条件をしっかりと交渉しましょう。
物件選び
物件選定は、自院のコンセプトや設備、ターゲット層、価格設定や立地などを踏まえ、決めていきます。
物件の立地や外観、周囲の環境は集患に直接影響する要素なので、自院のビジネスモデルに沿った慎重な選定が求められます。また、地域によってペットの飼い方や需要のあるサービスが異なるため、地域の特性を複数の要素からリサーチすることが不可欠です。
医療機器の発注
動物医院に必要な医療機器は、多くが内装と一体化するもので、そうではないものも場所を大きく取る設備が一般的です。内装工事に着手する前に発注をある程度完了させる必要があります。
開業前にどれだけの金額をどの医療器具の購入に充てるかを明確にしておくことが重要です。そのうえで、長期的な視点でのコストパフォーマンスや維持費、消耗品のコストなどを考慮し、決定するとよいでしょう。
外装・内装工事
資金計画、物件選びが完了したら自院をどのようなデザインにするかを考えます。外装は院のコンセプトや雰囲気を視覚的に表現ができ、ターゲットにアピールできるデザインにしましょう。
内装についても顧客へのアピールとなるような空間づくりは欠かせませんが、清潔感の確保も大切です。特に動物病院はクリーンなイメージが重要であるため、清潔感を出すために色使いや材料、照明などを工夫しましょう。また、掃除がしやすいようにインテリアを配置することも重要です。
スタッフ採用
開業2~3ヶ月前にはスタッフの採用を開始しましょう。獣医師、動物看護師、受付スタッフや清掃員など、動物病院に必要な様々な職種が存在します。自院のニーズに合った人員を見極めて採用活動を進めることが望ましいです。
保健所・厚生局での手続き
動物病院を開業するためには、保健所・厚生局に開設届など必要書類を提出し、承認を受ける必要があります。一部の保健所では実地検査も行われるため、内装工事の完了後、速やかに手続きに取り掛かるよう心掛けましょう。
青色申告の申請
個人事業主の確定申告は青色申告と白色申告から選択できます。青色申告すると、税制上の特別な控除の適応や税務署から無料で簿記の助言を受ける権利など、様々なメリットがあります。
何も申請しない場合は自動的に白色申告になり、青色申告をする場合は税務署に青色申告承認申請書の提出が必要です。個人事業の場合、適用を受けたい年の3月15日まで、新規開業の場合は開業後2カ月以内に提出しなければなりません。
社会保険の加入
動物病院を開設する際には、事業者自身の保険と従業員の保険という、2つの異なるタイプの保険への加入が必要となります。
個人事業主の保険加入
個人事業主は、個人の社会保険の手続きを自身で行う必要があります。
健康保険 | 日本では「国民皆保険制度」によって必ず入らなければいけない保険です。動物病院の事業者は、市町村の国民健康保険に加入することが必要です。 |
国民年金保険 | 20歳以上60歳未満の人は、必ず加入しなければならない保険で、老年になったとき、障害状態になったときに保障される制度です。こちらも個人事業主であっても加入が必須で、退社後14日以内に手続きが必要です。 |
介護保険 | 高齢者の介護負担を支える保険制度で、健康保険と同時に徴収されます。個人事業主も同様に徴収されるため、国民健康保険への手続きだけで問題ありません。 |
従業員を雇用する際の保険加入
従業員を雇用する際、以下の保険に加入することが必要です。
雇用保険 | 労働者の失業時の生活を支援し、早期再就職を促進するための保険です。ハローワークにて手続きを行います。 |
労災保険 | 労働者が職場で事故に遭った時などに、治療費や保証を提供する保険です。労働基準監督署にて手続きを行います。 |
健康保険・厚生年金 | 従業員が5人未満の場合には国民健康保険・国民年金保険の加入、従業員が5人以上の場合には厚生年金保険と協会けんぽ健康保険の加入が必要になります。 |
集客
集客戦略は、医院のコンセプト、ターゲットとする患者層や動物、地域の特性などに応じて、多岐にわたるアプローチが考えられます。患者のニーズに応えるサービスを提供することを中心に、信頼と満足を築けるような方針が動物病院を成功に結びつけるでしょう。
また、集患活動を強化することで、より多くの収益を上げることができます。その収益で品質の高い医療機器における導入やスタッフの研修に投資ができ、サービスの質向上にもつなげられます。
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