動物病院を安定して経営するには、診療技術だけでなく、開業前の商圏調査、資金計画、立地選定、集患、飼い主とのコミュニケーション、院内の業務体制まで含めて準備することが重要です。開業時の判断を誤ると、想定より来院数が伸びない、固定費が重くなる、スタッフの業務負担が増えるなど、経営上の課題につながる可能性があります。
農林水産省の統計では、犬・猫などの小動物を診療する施設は増加傾向にあります。一方、犬猫の飼育頭数は大幅に増加しているわけではないため、「開業すれば自然に来院が増える」と考えるのではなく、地域の需要や競合状況を確認したうえで、自院の強みを明確にする必要があります。
本記事では、動物病院の現状を確認したうえで、経営上の失敗につながりやすい6つの要因と、そのリスクを抑えるための対策を解説します。
動物病院の現状

農林水産省が公表した「令和7年 飼育動物診療施設の開設届出状況」によると、2025年12月31日時点の飼育動物診療施設は全国で17,200か所あり、このうち「小動物、その他」を診療する施設は13,046か所でした。
2013年の同統計では、「小動物、その他」を診療する施設は11,032か所だったため、12年間で2,014か所増加しています。犬や猫などの伴侶動物を診療する施設は、長期的にみると増加しています。
一方、一般社団法人ペットフード協会の「2025年 全国犬猫飼育実態調査」では、犬の推計飼育頭数は約682万頭、猫は約884.7万頭です。犬は長期的な減少傾向から下げ止まりの動きがみられ、猫は横ばいで推移しています。
診療施設が増加する一方で、犬猫の飼育頭数が同じペースで増加しているわけではありません。そのため、動物病院を開業・経営する際は、単純な施設数だけでなく、商圏内の飼育状況や競合院、診療ニーズなどを確認し、自院が選ばれる理由を明確にすることが重要です。
動物病院の経営が失敗する6つの要因
①経営方針・判断基準が曖昧
動物病院では、診療内容、設備投資、採用、料金設定、営業時間など、日々多くの経営判断が必要です。経営方針や判断基準が定まっていないと、状況によって判断が変わり、投資や人員配置に一貫性を持たせにくくなります。
例えば、想定する診療領域が明確でないまま高額な医療機器を導入したり、その場の判断で営業時間やスタッフ配置を変更したりすると、固定費や業務負担が膨らむ可能性があります。
また、スタッフごとに対応方針が異なれば、飼い主にとってもわかりにくい運営になります。開業前に、自院がどのような動物・診療ニーズに対応し、どのような価値を提供するのかを整理しておくことが重要です。
②開業前のリサーチ不足
動物病院を開業する前には、診療圏の人口だけでなく、犬猫の飼育状況、近隣の動物病院、交通手段、住宅環境などを調査します。
競合院については施設数だけを見るのではなく、診療時間、休診日、対象動物、予防医療、手術、専門診療、夜間対応などの特徴も確認しましょう。近隣に複数の動物病院があっても、提供する診療内容や対象となる飼い主が異なる場合があります。
「競合が少ないから需要がある」「住宅が多いから来院が見込める」と単純に判断せず、地域でどのような診療ニーズが満たされていないのかまで確認することが重要です。
③初期費用の過剰投資・資金計画の不足
動物病院の開業では、物件取得、内装工事、診察台、検査・画像診断機器、手術設備、システムなど、さまざまな初期費用が発生します。
開業時から多くの設備をそろえれば診療の幅を広げられる一方、実際の利用件数が想定を下回れば、リース料や借入金の返済などが資金繰りを圧迫する可能性があります。
設備については「必要だから購入する」のではなく、想定する診療件数や利用頻度、導入によって見込める収益、維持・保守費などを確認しましょう。初期費用だけでなく、開業後に売上が安定するまでの運転資金を確保しておくことも重要です。
④立地と物件の選定ミス
動物病院では、飼い主が犬や猫を連れて来院するため、自動車でのアクセスや駐車場、建物への入りやすさなども物件選びの重要な条件です。
例えば、大通りから見つけにくい、駐車場へ入りづらい、診療スペースや入院設備を確保できないといった物件では、開業後の運営に影響する可能性があります。
また、犬の鳴き声などが周辺環境へ影響する場合もあるため、防音や近隣住宅との位置関係にも配慮が必要です。現在所有している土地や賃料の安さだけを理由に決めず、診療圏や運営方法を踏まえて判断しましょう。
⑤集患・来院導線の整備不足
開業後に地域へ存在を知ってもらうためには、開院前から集患の準備を進める必要があります。ホームページを作成しただけでは、必要なタイミングで飼い主に見つけてもらえるとは限りません。
Googleマップなどの地図検索、Webサイト、SNS、看板、地域への案内など、複数の接点を整えましょう。診療時間、休診日、対象動物、アクセス、駐車場、初診時の持ち物、予約方法などの基本情報をわかりやすく掲載することも重要です。
また、病院を知ってもらえても、予約方法がわかりにくかったり、電話がつながりにくかったりすると、来院につながらない場合があります。認知獲得だけでなく、予約・問い合わせまでの導線を確認しましょう。
⑥飼い主とのコミュニケーション不足
動物自身が症状を説明できない動物医療では、飼い主から状態や生活環境を聞き取り、診療内容や検査、費用などをわかりやすく説明することが重要です。
専門用語が多い説明や、十分な説明がないまま診療が進むと、飼い主が不安を感じる可能性があります。診療方針や選択肢、今後の通院について丁寧に説明し、疑問を確認できる時間を確保しましょう。
さらに、予約時の案内、待ち時間、受付時の対応なども来院体験の一部です。診療の質だけでなく、予約から会計までの流れを含めて改善することが、継続的な来院につながります。
動物病院の経営リスクを抑える対策

経営理念・コンセプトを明確にする
動物病院を開業する前に、どのような診療を行い、どのような飼い主や動物に利用してもらいたいのかを整理します。経営理念やコンセプトを明確にすると、設備投資、採用、料金、営業時間、集患などを判断する際の基準をつくれます。
経営理念
経営理念は、自院が動物医療を通じてどのような役割を果たし、どのような価値観で経営するかを表す考え方です。
院長だけでなくスタッフとも共有することで、診療や接遇、日々の判断に共通する基準を持ちやすくなります。長期的な方向性を示す内容として整理しましょう。
コンセプト
コンセプトでは、経営理念を実際の診療やサービスへ具体化します。例えば、犬猫の一般診療を中心に地域のかかりつけ医を目指すのか、特定分野の診療にも力を入れるのかなどを決めます。
- 診療圏と競合医院を調査する
- 対象とする動物・飼い主を整理する
- 地域で求められている診療・サービスを確認する
- 自院が提供できる価値や強みを整理する
- 診療内容・設備・営業時間などへ具体化する
コンセプトと実際の診療内容・設備・立地に一貫性を持たせることで、開業時の過剰投資や方向性のずれを防ぎやすくなります。
事業計画と資金計画を具体化する
事業計画では、診療圏、診療内容、料金、来院数、スタッフ数、営業時間、集患方法などを整理し、それをもとに収支を試算します。
特に重要なのが、想定より来院数が少なかった場合でも資金を維持できるかという視点です。物件取得費、内装工事、医療機器などの初期費用だけでなく、人件費、賃料、リース料、水道光熱費、消耗品費などの固定費・運営費も確認します。
売上を楽観的に見積もるのではなく、複数の来院数を想定して収支を確認し、資金不足に陥りにくい計画を立てましょう。
診療圏調査をもとに立地・物件を選ぶ
立地選びでは、地域の人口だけでなく、犬猫を飼育する世帯、競合する動物病院、道路環境、駐車場なども確認します。
物件については、一戸建て、テナントなど形態によって必要な工事や運営コストが異なります。診察室、処置室、検査スペース、手術室、入院室など、想定する診療内容に必要なスペースを確保できるか確認しましょう。
現地では、自動車での入りやすさ、看板の見え方、交通量、周辺住宅との距離なども確認します。Web上の物件情報だけで判断せず、実際の来院動線を想定して調査することが重要です。
オンラインで正確な情報を発信する
動物病院を探す飼い主に、自院の存在と特徴を知ってもらうためには、Web上の情報整備が重要です。公式サイトや地図検索、SNSなどを組み合わせて活用しましょう。
検索広告
検索広告は、検索キーワードに応じて検索結果画面などへ表示する広告です。「地域名+動物病院」など、来院先を探している人に情報を届ける方法として活用できます。
広告を利用する場合は、クリック数だけでなく、予約・問い合わせにつながった件数まで確認し、費用対効果を継続的に見直しましょう。
SNS
InstagramやFacebookなどのSNSでは、休診日や診療案内、予防医療に関する情報、院内の雰囲気などを発信できます。定期的な情報発信によって、初めて来院する飼い主が院内の雰囲気を把握する際の参考にもなります。
SNS広告を利用する場合は、各媒体のルールに従って地域や利用者属性などの条件を設定し、自院の商圏に合わせて配信します。
公式Webサイト・地図検索
公式Webサイトには、所在地や診療時間だけでなく、対象動物、診療内容、初診方法、予約方法、駐車場、緊急時の連絡方法などを掲載します。
また、地域で動物病院を探す際は地図サービスが利用されることもあるため、Googleビジネスプロフィールなどの施設情報を最新に保つことも重要です。診療時間や休診日を変更した際は、Webサイトとあわせて更新しましょう。
>>効果的な集客法:動物病院の口コミマーケティングとサービス
飼い主とのコミュニケーションを重視する
診療時には、飼い主から動物の症状や生活状況を丁寧に聞き取り、検査や治療の目的、選択肢、費用などをできるだけわかりやすく説明します。
また、スタッフ間で対応方針を共有し、受付や電話、会計でも案内内容に大きな差が生じないようにすることが重要です。
アンケートなどで飼い主の意見を集める場合は、待ち時間や予約方法など、改善可能な項目を定期的に確認し、院内運営の見直しに活用しましょう。
スタッフ配置と業務フローを整える
院長だけでなく、勤務獣医師、愛玩動物看護師、受付スタッフなどが連携して運営できる体制を整えることも重要です。
予約受付、問診確認、診療、検査、会計などの流れを整理し、担当者ごとに対応が変わらないようにします。繁忙時間帯や予防接種シーズンなどを想定してスタッフを配置すると、待ち時間や業務負担を抑えやすくなります。
予約・受付業務をデジタル化する
電話や紙だけで予約を管理している場合、診療中の電話対応や予約変更、キャンセルの確認などがスタッフの負担になることがあります。
予約システムの導入
オンライン予約を導入すれば、飼い主が診療時間外でも予約できるようになります。また、予約内容や問診情報を事前に確認できる仕組みを整えることで、受付から診療までの業務を整理しやすくなります。
ただし、緊急性の高い症状まで一律にオンライン予約で受け付けるのではなく、電話連絡が必要なケースなどを予約ページ上で案内しておくことも重要です。
動物病院向けの予約システムとは
動物病院向け予約システムは、診療、ワクチン接種、健康診断などの予約受付や、飼い主・ペットに関する情報をオンラインで管理するためのシステムです。
電話受付をすべて置き換えることが目的ではなく、定型化しやすい予約をオンライン化し、電話で対応すべき問い合わせと分けることで、スタッフが診療・受付業務に集中しやすい環境を整えることがポイントです。
予約システムの導入メリット
・予約受付を効率化できる
飼い主がWebやLINEなどから予約できるため、診療中や営業時間外の電話受付を分散できます。
・予約情報を一元管理できる
予約日時や診療メニューなどを一覧で確認できるため、紙の予約台帳や複数の管理表への転記を減らせます。
・来院前の情報確認に活用できる
Web問診などに対応するシステムでは、来院前に動物種や症状、相談内容などを確認できます。
・予約忘れ対策に活用できる
予約完了通知やリマインド通知に対応していれば、予約日時や持ち物などを来院前に案内できます。
動物病院の運営に役立つ予約システムの機能
予約システムによって利用できる機能やプランは異なります。自院でオンライン化したい業務を整理し、必要な機能を選びましょう。
LINE連携機能
LINE連携に対応している予約システムでは、飼い主がLINEから予約したり、予約完了やリマインドなどの通知を受け取ったりできます。普段利用しているアプリから予約へ進める導線を用意することで、予約時の負担を減らせます。
Web問診票
Web問診票では、予約時や来院前に、動物種、名前、年齢、症状、相談内容など必要な情報を入力してもらえます。受付後に一から聞き取る項目を減らし、来院前に診療内容を確認する際にも役立ちます。
キャンセル待ち機能
キャンセル待ち機能は、満席の日時についてキャンセル待ちを受け付け、空き枠が発生した際に登録者へ案内するための機能です。繁忙時間帯や予防接種などの予約枠を有効活用しやすくなります。
顧客・ペット情報の管理
飼い主の連絡先や予約履歴などを管理できるシステムでは、受付時の情報確認を効率化できます。動物病院向けの運用では、どの情報を予約システムで管理し、どの情報を診療記録として管理するか、院内のルールをあらかじめ決めておくことが重要です。
まとめ
動物病院の経営では、経営方針の曖昧さ、開業前のリサーチ不足、過剰投資、立地選定、集患・来院導線、飼い主とのコミュニケーションなど、複数の要因が経営リスクにつながります。
特に開業前は、診療圏調査と事業計画をもとに、自院のコンセプト、必要設備、投資額、スタッフ体制などを具体化することが重要です。開業後も、来院状況や予約、飼い主からの意見などを確認しながら継続的に運営方法を見直しましょう。
また、予約システムなどを活用して受付業務を整理することで、スタッフの負担を抑えながら飼い主が利用しやすい環境を整えることもできます。自院の規模や診療内容に合った方法から取り入れていきましょう。
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画像引用元:RESERVA 動物病院
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診療予約、ワクチン接種、健康診断、オンライン診療などの予約に対応し、LINE・Web予約、Web問診票、予約通知、カルテ、お知らせ配信など、動物病院の予約・受付業務に役立つ機能が用意されています。
電話受付を減らしたい、来院前の問診を効率化したい、予防医療の予約をオンラインで受け付けたいなど、自院の課題に応じて活用を検討してみてください。